「自分の体に不自由なところがなければ、
何かに頼らなくても済むのかなってそう思って」
「とつくにの少女」や「部長はオネエ」を描かれたながべさんの新刊「ウィズダムズのけものたち」
正直なところ「部長はオネエ」を読んでも良さがちょっと私にはわからなかったので新刊どうしようかな〜と思っていたんだけど、”ハリーポッター風味の獣人学園モノ闇要素あり”と聞いて慌ててポチりました。
ついでに買った他の新刊も当たりでなんだろう、そろそろ天に召されるかもしれないと思いました。
ながべ「ウィズダムズのけものたち」の評価
全部で8つのエピソードが収録されていて、それぞれに違う種族の獣人が登場する。
それぞれの完成度が高いのでどんな腐女子様でもこの組み合わせはたまらんというのが見つかると思うのだけど、せっかくの学園ものなのに話をまたいでの繋がりがあまりなくて残念に思った。
オムニバスというほど独立してもいないようなほのぼのした話とちょっとドキッっとする話が続いていく。
ちなみに行為的なものは、A・B・C・のAまでしかありませんが妙になんかやらしいはやらしい。
これが好きなら要チェック
ながべ「ウィズダムズのけものたち」のあらすじ
あらすじ
- 魔法学校に集う、
獣人たちの恋の図鑑。森の中に人知れず存在する、
“ウィズダムズ魔法学校”
そこには知性ある多様な獣たちが集い、
共に学び、暮らし、様々なかたちの恋をする。
身近な動物から幻獣まで、
リアルな筆致とユーモラスな視点で描いた
異種族たちのファンタジーBL作品集。
ながべ「ウィズダムズのけものたち」収録作品とちょこっとネタバレ
- 「天才と凡人」ネコ×野うさぎ(純愛・媚薬)
- 「喰らうもの、喰われるもの」タイリクオオカミ×ヤギ(依存・かにばり)
- 「教師と生徒」ドラゴン×ドラゴン(超歳の差・おじいちゃんと孫か?)
- 「変温動物、恒温動物」アカシカ×トカゲ(冬トカゲ介護)
- 「求愛と友情」インドクジャク×ハシボソガラス(人畜無害に見せかけた闇カラス)
- 「餌と遊び」ナミチスイコウモリ×ナミチスイコウモリ(吸血・子供の遊び)
- 「話したがりと聞きたがり」ユニコーン×グリフォン(先生同士のほのぼの)
- 「獣と人」ツキノワグマ×人(癒やし・かわいい)
- 4コマ漫画:「おまけのけものたち」
ながべ「ウィズダムズのけものたち」の感想
一言感想まとめ
- ホグワーツで獣人がほのぼの学園生活
- ケモナー入門書として最適!
- ちょうどよい余白が妄想をかきたてる
- 「あらしのよるに」が突然ほのぼのBLに
ほのぼの学園生活
ぁれぇ・・・ここは・・・ホグワーツ・・・?
冒頭のコマで山の上にある魔法学校「ウィズダムズ」が描かれます。
ノイシュヴァンシュタイン城っぽいその豪奢な学び舎では大魔法使い「ウィズダムズ」に人の姿と知恵を与えられた「獣人族」たちが日夜、学問や研究に励んでいる。
組分け帽子はないけれど彼らを分類しているのはその”種族”で、ネコやシカから爬虫類さらには空想上の生物ユニコーンやグリフォンにドラゴンまで多種多様な生き物たちがその垣根を超えて心を通わせ合う。
大魔法使いウィズダムズっていうのは人型なんだろうけど創造主としての存在なのだと思う、この世界には獣人族の他にもきちんと”人間”が存在しているから。
上にも書いたけど8組のお話の中で最後の一編はクマ×人ですし。
ただ人間だからどうのこうのという話が書かれるわけではなくてすべての話の中でもこのクマと人の話は一番ほのぼのしている。言い表すなら、世界で一番有名なあのクマ×人間・・・
ケモナー入門書
著者のながべさんがあとがきで、
『部長はオネエ』では人外要素が外見のみじゃないか!とお言葉を頂いたので今回はもっと要素をもりこんだつもりです。モチーフとなった動物の特徴や生態や関係性、中には変わった習性も使える限りネタとして入れてみました。
とおっしゃっているように、耳と尻尾はやしただけとか、どちらかが完全に獣でも片方は人間とか、単なる「要素」としての人外ではなくて、二足歩行で喋るけど基本動物ですどうも!なBLファンタジーになっている。
「人外要素が外見のみ」と言われてからの対応が動物の生態を取り入れる・部長だとか課長だとか現実味ではやりにくいからファンタジーにする・ついでに魔法学校にしちゃう、というような具合で結構真面目で堅実な人なのかなあと思ったりもしたんだけど、
時折ふっと現れる「闇」の部分が常人のそれじゃないので「入門書」として最適だけれどもちょっぴり毒がありますよと書いておく。
ちょうどよい余白が妄想をかきたてる
『ウィズダムズのけものたち』というタイトルからもわかるように、「けものたち」の日常を切り取った作品なのでそれぞれの深みはあまり見られない。
とっても残念。
生徒の関わりはほぼ見られないが先生に関してはその役割上、複数の話にまたがって登場するということもまああった。
ただ残念ではあるのだけども描かれなかった繋がりや出来事をこちらで補足していくには非常にオタク心をくすぐるようにできているなと思う。
ただの話し相手として登場するユニコーンとグリフォンの先生コンビは本当に話の最後まで話し相手のままで、ユニコーンはその種族から「高潔なユニコーンなのに男が好きでひ弱で」と同族から忌み嫌われている描写が一瞬、そして雷親父系グリフォン先生のほうはなんと童貞設定である。
しかもどっちがどっちなのかもよくわかんないし!でもユニコーン×グリフォンってかいてあるし…?
上で嘘言った、ここに関しては公式が見たい。
先生ものってすげえたぎるんだよ、
「飛ぶ教室」に出てくる正義先生と禁煙さんの組み合わせなんてなんで薄い本がないのか不思議なくらい…
違う話になりましたけどもとにかく余白があるのはいいよ。
あらしのよるに
あらしのよるに暗闇の中で狼と羊が出会ってさあ大変、という日本の学校に通っていれば何かしらの過程で見聞きするであろう名作のお二人が登場します。
登場しますって狼と羊ってだけなんだけども、つまりこじつけです。
そう思いたいから思うんだ。
狼の方は夜行性なので授業中も寝てばかりいる、その隣でいつも彼の面倒を見ているのは彼の10分の1ほどの体格しかない羊。授業もそっちのけで悪いのは羊ではないのにいつもセットでいるばかりにちゃんと面倒を見ろよと言われる始末、それでも彼がそばにいるのは「捕食される快感」を味わいたいから。狼への気持ちと所詮獲物であった己の存在というところがうまいこと組み込まれているお話でした。
これは3番目くらいに面白かったかな。
一番良かったのがやっぱりトカゲとシカのお話。
あたり一面雪景色になった冬の学校で寒さに弱い変温動物のトカゲは自分の身の回りのことも日常の行動もなにもかも億劫で動けなくなってしまう、それを手助けしてやるのがシカで彼はいつもしっかりしているトカゲがこの時期だけ自分に頼りっきりになってしまうことを嬉しく思っているという話。
「自分の体に不自由なところがなければ、何かに頼らなくても済むのかなってそう思って」
シカに頼ってしまうトカゲの何気ない一言。
静まり返った季節にトカゲとシカの温かい気持ちが伝わってくるお話だった。