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🧙🏻‍♀️続編ネタバレ|『記憶の糸 ~坂の上の魔法使い~』明治カナ子|後日譚

「お前が長の使役の正体を見ることができたら、月に一度は帰ってくるし、落成式にも出てやろう」

明治カナ子『記憶の糸』

『記憶の糸』の評価
ストーリー
(5.0)
キャラクター
(4.0)
名作
(5.0)
総合評価
(4.5)

『坂の上の魔法使い』三部作でハラハラさせられた記憶が脳に焼き付いていたので、

今回は大丈夫だろうな!?

平和になったんだよな!?

とドキドキしながら読みました。

ざっくりポイント
  1. 『坂の上の魔法使い』の後日譚
  2. ちょっとドキッとするシーンはあるものの、ほっこり楽しい話
  3. ギルドの長の過去・ラベルの奮闘・リー様の放浪記・懐かしのあの人も登場するよ

あらすじ

魔法使いが多く住む町・ゲルの外れの荒れ山に、魔法使いのリーと弟子のラベルは住んでいる。町の総督となったラベルは、魔法使いたちの新居住区をつくる準備で大忙しだ。そんな中、ギルドの長に仕える使役の顔が気になってしまう。いつも仮面を被っている使役の素顔は、リーすらも見たことがない。使役の正体を見ることができたら、居住区の落成式に出てやろう――。リーと約束を取りつけたラべルは使役の秘密を探るのだが……!?

(Rentaより引用)

ネタバレ感想

盛りだくさんですっっっごいニコニコしながら読んでしまった。

『坂の上の魔法使い』が好きな人なら絶対に読んで損はない後日譚です。

今回、主人公となるのはゲルドの長「エイベン」

リー様のことが大好きで崇拝してやまない編み込み金髪のおじさんです。

彼は過去の記憶というものがある時を境にぷっつりと途切れていて、リー様を最初に見たという記憶しかありません。

しかしそのリー様はラベルばかり気にかけているようで、自分のお茶の誘いには全く乗ってくれないという嫉妬心から彼は無くしてしまったはずの過去に関心を抱くようになります。

これが主軸のお話。

加えて、新居住区の建設にまつわるアレコレ長の使役の正体についてリー様とラベルが賭けをしたり、魔法使いにとって大切な「杖」を生み出す聖木の話も同時に進行していきます。

あっちこっちでいろんな問題が起こるなか、リー様は落成式に出るのか!?

結末ですべての事柄がすっと結びついたのは圧巻でした。

明治さんの作品について

いつも感心するのは、同じ事柄でも他者の目から見ると全く違う捉え方が出来るということをきちんと書かれていること。

私達が知らないところでいろいろな感情を受けながら生きているんだなということがひしひしと伝わってきます。

宇多田ヒカルの曲の歌詞に「あなたの幸せ願うほどわがままが増えてくよ」という一節があるけども、これがラベルの父であったセロハン王の思いにピタリと重なってしまって人のことを思うとはどういうことなのだろうと考えさせられます。

今回の『記憶の糸』でも、感情の行き違いや思い込みによって相手との関係がうまくいかない場面が描かれています。

双方に思うことがあって、それはどちらも間違ったことではないのにどちらも自分が正しいと思っている間は受け入れられない。

淡々と登場人物たちが日常を過ごしているはずなのにこんなに深く考えさせられる…

ミミズ

今回も地に住まう方々とかいうすげえでかいミミズがでてきます。

「我々の住んでいる土地の上に住居を作りたいなら、同族の銅像を作れ」

との無理難題を押し付けてきます。

ミミズの銅像てなんやねん

それで、リー様は過去にラベルためこのミミズをアレヤコレヤしてしまったのでなんだかんだ理由をつけて合わないように逃げ隠れしています。

上でも書いたけど、交わることもあるし絶対に交わらないから避けるべきという、どちらかに偏った書き方をしないところもすごくいい。

道徳の教材とかにしたらいいのに、うんこみたいな教本配ってんだから。

はい、話がそれましたがミミズ各々にそっくりな銅像を人間の工人が作れるわけもなく、そこである人物なら作れるのではないか?という情報が寄せられます。

この人物というのが懐かしのあの人!

こんなに人格が変わってしまうものなんだなと面白かったです。

長の使役の正体について

言ってしまっては面白くないので伏せますが、ここも書き方が面白かった。

幼い頃、長の教育係であったマキの使役はその正体を見たことがある描写がされていました。

男でも女でも…?若者でオバサンで?使役たちは2人で言い争いますが、長が使役の容姿に目くらましをかけていたためはっきりとは分かっていない様子。

そしてラベルは、目の能力のおかげか「女性」であることだけは見破っています。

みんなが、わたわたとうごめく中でリー様は一人放浪し好きな本を手に入れ幸せそう。

「今の私が杖を手にしたら世界の均衡が…」

とか物騒なことをいってましたが、彼らが生き続ける限りこの地に平和が続いてほしいと願ってしまうほど優しい物語でした。