今日は国枝彩香の『低温ブランケット』ネタバレ感想書きます。
研究職の仕事以外てんで役に立たない叔父と、高校生のおばんくさい甥の話なんだけど最高に好き。
『魚住くんシリーズ』や『きみがいなけりゃ息もできない』から脈々と受け継がれるこの「生活能力欠如受けシリーズ」。基本的に受けは、生活に対する全般が苦手で自分のことに無頓着、だけどそれじゃ何だか可哀想だし生きてけないよと天から唯一与えられた才能でなんとか人間の形を保っている。そんななんだかワンルームに一人で放っておいたら一日と経たず部屋の中で死んでるんじゃ…と不安になるような受けには必然的に世話役の攻めが必要になる。オカン系攻めの誕生である。
『低温ブランケット』は全2巻、読み切り短編なしの最初から最後までぜぇ〜んぶ『低温ブランケット』の二人のお話である。超美味しい。
そもそも、2冊構成にして1巻の半分を過去の関係ない短編で埋めて続きは2巻で!!というのをやられるとフツフツと怒りがこみ上げる。いえ別に短編を読みたくないわけでは無いですが、そこでかさ増しする必要ないので短編集として出してください!これは短編にしかならなかった話なんだと前置きをして読めるから…
話を戻すがこの『低温ブランケット』まずタイトルがいい。ほぼ作家買いだがこのタイトルの良さも目を引いた。これはもう単純に、「ライナスの毛布」にかけていることがわかる。では、誰にとって何が「ライナスの毛布」なのか。
大体のトコは攻めの視点で話が進んでいく。攻めくんこと主人公の大輔は両親の海外出張で少しの間叔父の芳一(よしかず)に預けられることになった。芳一は大輔の叔父さんにあたるのだが、実はそこに血縁関係はない。芳一の姉であり大輔の母である佳代子夫妻が事故で亡くなった友人の子供である大輔を引き取ったからだ。「生活能力欠如受け」ことホーイチは、低血圧の貧血持ちでアバラの浮いたガリガリの真っ白な身体をしている。お約束で顔だけ綺麗。この男、一人暮らしを始めた当時白米だけを食べ続け栄養失調で倒れたり三日風呂に入らないのは当たり前でとにかく会社勤めが出来ていることが奇跡である。そしてこのホーイチこのきれいな顔面に傷ばかり作ってくる…「ボンヤリして」たら瞼の上に切り傷を作り、鼻血を出したり、転んで机の角で額を割ったり、もう心配するな気にするなという方が無理な物件である。
一緒に暮らし始めた二人は、というかもう住み込みで芳一の世話をし始めた大輔はもうこんなわけだから芳一のことが気になって気になってしかたがない。しかしこれは恋なの?愛なの?!微妙な部分でまだまだ未熟な高校生の大輔に、ぼんやり男芳一では話が進まない…のかと思いきや、あっという間にベッドインまで持ちこんでしまう。インするだけで終わるのだけどね…。
芳一は大輔に言った、「好きな人が相手だとたたないんだよね」。こうして、17の夏大輔は芳一をぶん殴って別れ別れになってしまう。
これで2話分程度のネタバレになるが、話はまだまだ続く。なんせ2冊もある。うれしい。
このあらすじだけで大体の所はタイトルと繋がるだろう。大輔にとって芳一は「ライナスの毛布」なのだ。低温だしね。大輔は中学の時に自分が貰われてきたことを知らされる。しかしそれまでにも、あまりに似ていないことを指摘されたり自分でもわかるほどのその容姿の差異に「もしかして」という気持ちはあった。ものすごくいい人な両親はやさしいし何の不自由もないが、自分に対する違和感がその優しさを素直に受け入れられない引っかかりとなっていたのだろう。その点で芳一は、佳代子夫婦に一人可愛がられていたところに突然貰われてきた大輔が邪魔で仕方がないのでいじめる。それでも大輔は、この幸せで平凡な家の中にある違和感である自分と芳一の存在をぼんやりとながらも感じて、芳一になつくことをやめなかった。全然似ていないのに結局二人は似たもの同士であったのだ。どんなに優しくそうだよね辛かったよねと共感してくれたとしても、そのちっぽけな共感なんてものは同じ体験をしてきた者同士にとっては風の前の塵に同じということだ。
こんなふうな、日常を舞台とした話を読む時楽しみにしているのが、生活の描かれ方である。最初こそ、冷蔵庫に卵牛乳野菜が入っていて冷凍室には小分けにした肉や魚まで用意されていた芳一の家だが、それはまがい物で実は芳一の上司であるダンディおじさまが仕込んでいったもの。なんて生活力の高さだろう…こんなおじさん身近にいない…。しかし、二人で暮らしていく内に母親から仕込まれた大輔の料理の支度や味付けに馴染んでいく。もちろんコンビニ弁当を食べるときだってある。でもそれが「安心」の形なのだなと感じた。