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🌹ネタバレ感想|中村明日美子『Jの総て』|マリリンモンローに憧れた少年

「僕は君が好きだ、それだけじゃだめなのか、それだけじゃ2人で生きていく理由にならないのか」

今まで読んだBL漫画の中で一番泣いたといっても過言ではない『Jの総て』を紹介しようと思います。

巻数表記のあるものは全3巻で発売されていますがもう一冊、少年時代の番外編『ばら色の頬のころ』を合わせたシリーズ全4巻として読むのがおすすめです。

他作と比べるのは好きじゃないですが、『同級生』よりも好みです。

ギムナジウムでの若葉のような少年時代から凄惨な日々を乗り越えて、少年たちが見守る「J」が生きる力を取り戻すまでを描いた傑作BL。全3巻、番外編あり。

ざっくりポイント
  1. 「J」は母親が父親を拳銃で撃ったという幼少期の凄惨な記憶を引き摺って生きている。
  2. 「J」は性同一性障害でマリリンモンローになりたいと願っている。
  3. 「J」を取り巻く、義理の兄のような優等生ポール、市長のドラ息子、行き倒れている所を「J」に拾われたリタ、彼等の思いが「J」を救う。

ネタバレまとめ

第一巻「ギムナジウム」

1952年オハイオ州、10歳のJが学校帰りにいつも寄り道するのは映画館。

そっと忍び込んではスクリーンに映し出されるきらびやかな世界を垣間見た。中でもお気に入りだったのはマリリンモンローの出演している映画だった。

「J」の母親は南部出身のカトリック規律に厳しくすぐ手を上げた、父は自動車工場の機械技師母があまりに怒った時は間に入りなだめてくれる。

しかし、そんな普通の毎日は長く続かなかった。

工場の自動化が進み父親はクビに、お決まりのアル中になって母親が働きに出ることに。

そうして、家に2人でいることの多くなった「J」は父と禁忌をおかした。

悲劇の始まりだったのかもしれない。

仕事から帰るやいなや、その光景を眼前に突きつけられた母親はそっと引き出しから拳銃を取り出し…

「J」は言う、

「その時のことはあまり覚えてないの、とにかく大騒ぎで警察が来て父と母がいなくなって学校の先生があたしにいっちょうらを着せて…」

そうして孤児院へと送られた「J」は一年後に別人のような変貌を遂げ寄宿学校の理事を勤めるカレンズバーグへ養子に入る事となった。

ミス・カレンズバーグには子供がいない、ただ彼女の亡き姉の一人息子、真面目で勤勉なポールを息子のようにかわいがっていた。

17歳のポールはあまりに奔放な「J」にいい印象は持っていない様子で、それを知ってか「J」の方も学内でも悪い連中とつるむようになっていく。

そのリーダー格が、市長の一人息子モーガンだ。

花の園で出会った少年たちは巣立ちを迎えた時どこへ向かうのか。

第二巻「ニューヨーク」

街で出会った男にニューヨークへと誘われた「J」は出奔、男のツテでクラブ歌手をしていた。

「フランス人は色恋に命をかけるけど女の子はきれいなダイヤをくれる人が好き」

父親をも惑わしたその生来の美貌と色香は燦然と開花しニューヨークの観客を魅了した。

「J」のことを男だと思うものはほぼいない。

あこがれの街であこがれの人になりきって歓声を浴びる生活、満たされているはずなのに「J」はどこか演じているような素振りを見せる。

ある日、道端で行き倒れていた「リタ」という少年のように見える少女を拾った「J」。

実を言うと、19歳の「J」に対して彼女は28歳と10近く歳が離れているのだが、とにかく彼女を付き人としてそばに置くことにした。

しかし、救いになるかと思われた彼女の存在によってまたもや「J」は姿をくらましてしまう。

第三巻「刑務所」

1982年ニューヨーク州オシニングシンシン刑務所

マリリンモンローの死というショッキングなニュースを「J」はそこで聞くことになった。

刑務所には服役中のモーガンもいる、そして弁護士を目指し司法修習生として働くポールも研究テーマの調査に訪れることに…さらに「J」がニューヨークから姿をくらました後その行方を追い続けていたリタも何か事情を抱えて彼を探している。

彼等が一堂に会したとき、「J」の運命はゆっくりと動き出す。

感想

上手くまとまりませんでしたが、さらに完結後『バラ色の〜』にてモーガンとポールのギムナジウムでの中等部時代が描かれます。

作中の登場人物たちは皆生い立ちに何かしらの問題を抱えていてどこか役を演じるように生きています。

同じ痛みを知っているからこそ、その痛みを分かち合うことが出来るという典型の物語。

Jのトラウマ

作中で「J」は父親に抱かれることでうまくいくと思ったんだ…という趣旨の発言をする。

良かれと思って自分のしたことが結果家族を離散させる最悪の結果になってしまった。

それがトラウマの根本として「J」は自分のことを責め続けていると捉えられますが、周りの人間が言うように子供であった「J」の周りで起こった出来事は一つとして彼に非はない。

当時13歳であったところからだんだんと大人になるにつれて「J」も頭の何処かでその客観的な事実については理解しているように思える。

ならばなぜアレだけ苦しんでいるのかと推察するに、“母親の撃った銃口はどちらに向いていたのか”という部分に行き着く。

いつまでも癒えない傷は、そのはっきりしない部分に隠され、いつまでも「J」を苦しめ続けている。

母親は本当に父親を狙ったのか。

ポールの純情

はっきり言ってしまうと!ポールが寄宿学校時代に「J」のことを受け入れていればこれだけ苦しまなくても良かったのではないかと思ってる。

どんどん自暴自棄になっていく彼の頭の片隅にはいつもポールがいて、あのギムナジウムでの日々が暖かい思い出のように思い出される「J」のやわらかい部分が失われずにいてくれた最後の結末は本当に涙が出た。

アメリカについて、土地の風土や人種差別、また「J」のようなマイノリティに対する偏見などについてあまり詳しくないが、時代考証としてどこまで正確なのかという疑問は残る。

ただ読み終わった後に、彼等の生きた時代やその舞台について知りたいという欲求が生まれるほどにこの作品は読者を惹き付ける。

世界観だけを垣間見るなら、「J」がお揃いのドレスを着て歌い踊るマリリンモンローの「紳士は金髪がお好き」やププッピドゥというワンフレーズで有名な「I Wanna Be Loved By You」などを見てみるのも面白いかもしれない。