人は何かに懸命になる時、その成功によってまたは失敗によって何を得るか考える。
受験勉強を懸命に頑張っている、志望校に合格することが成功だが失敗して第二または第三志望の学校に行かなければならないかもしれない。
これは簡単で単純な私たちの想像しやすい結びつき。
では、町工場で一人ロケットの部品を一から製造し映写機と一緒に宇宙に飛ばして木星のさらにもっと向うの宇宙人に映画を見せる。
こう聞いて、あたなは瞬時に成功と失敗のどちらを考えただろうか。
いや、どちらとも考えた人もいるし、そのどちらかしか考えなかった人もいるだろう。
「夢」の話に出くわす時、日本人は特に「そんなのうまくいきっこない」「現実を見ろ」と否定的だ。
それは過去にその人も「夢」を見たことがあるからだと私は考える。
「うまくいきっこない」「夢」はその人に「現実」を教えた。
その「現実」を生きるカナエちゃんと「夢」を追いかけるかずき、『我らコンタクティ』はそんな二人の物語。
あらすじ
実家ぐらしで会社員をしているカナエは仕事の帰りに待ち伏せしていた幼なじみのかずきに呼び止められる。彼の家は町工場を経営していて、そこでかずきが一人作ったというロケットのエンジンを見せられる。
「燃焼実験をします」
おもむろにそう言うとカナエにヘルメットを手渡し瞬く間に目の前でエンジンが火を吹いた。
「すごいじゃん」
「すごいよ」
「飛ばす時は冷却しないと」
「飛ばす?どこに?」
「宇宙」
コレは金になると踏んだカナエは計画を練りはじめるが、既にこのロケット計画に巻き込まれていて…
(『我らコンタクティ』森田るい)
才能だけで食っていけるか
かずきにはロケットを飛ばせるだけの才能と環境があった。
まず、実家が町工場で経営者は兄、ロケットの部品はそこからくすねているのでほぼ0円。
もちろんそこで働いている技術者であるから製造もお手の物。
そこまで揃えばあとはもうこの計画を継続できるかどうかにかかってくるように思えた。
しかしそこはうまくいかない。肝心の映写機を宇宙でどう動かすか、打ち上げ場所はどこにするのか、そもそも打ち上げの許可は降りるのか、様々な問題が山積みである。
この問題を、一人ぼっちに見えたかずきは周囲の人々の手をうまいことかりて解決する。
ぜったいに「夢」を実現したいという思いに周囲の人々はいつの間にか巻き込まれていて、わくわくするような忘れかけていた気持ちを奮い立たせ、なにもない「現実」が揺らめくような感覚を覚える。
私たちの暮らす、このどよんとした濁りきった水槽の中から「夢」を乗せて飛び出していこうとするロケット。
傍観者だった読者はいつのまにかこの計画に巻き込まれ、その打ち上げを今か今かと待っている。
最後に
飛ばすことが出来るのか出来ないのか、それはあなたの目で確認してほしい。
抑え込まれた「夢」はどこへ向かうのか。
成し得なかったことを人の夢に託す。
多くの夢をのせたロケットは…