「こいつは絶対、俺のことが好きなんだよな」
- 雁須磨子が2003年から発行していた同人誌の再録集
- 全11編のほっこり、たまにズキッと来るお話
- 表題作「つきあってさんかげつ目」が超かわいい
公式あらすじ
隣のクラスの北村に熱い視線を送られ、自然と彼を意識するようになった土井。ハッキリ気持ちを伝えてくれれば、付き合うのだってやぶさかではないんだけれど…。どっちが沢山好き?オスだから、主導権は譲れないんです。その他、愛しい日々がこぼれる極上短編集。
(『つきあってさんかげつ目』雁須磨子)
『つきあってさんかげつ目』のネタバレ感想
- さいしょの一歩
- つきあってさんかげつ目
- つきあってさんかげつ目と一週間と3日
- 傷
- めがね
- 明るい花
- why do
- 西日
- 遠くで電話がなってる気がする
- 先生と一緒
- デート
「つきあってさんかげつ目」
表紙でハートが乱舞してるんですけどこの装丁をそのまま受け取ってイメージできるお話でした。
土井ちんは自分のクラスに頻繁に遊びに来ては意味深な視線を向けてくる北村春彦のことを毎日毎日目で追ってしまう。
「そんなに好きなら言ってこいよ」
と土井ちんは上目線で思っているわけだが、北村くんは一向に接触してこない。
土井ちんはそんな状況にヤキモキして、
「こうこうこういう奴お前ならどう思う?」
北村の気持ちを勝手に例にしてカマをかけたつもりの土井ちんですが、それでも北村くんは土井ちんのことを「好き」だとは言わないばかりか、
「まあ卒業してもまたみんなで遊ぼうよ」
と別れを匂わせてくる。
頬を赤らめながら去っていこうとする北村にしびれを切らして土井ちんは…!?
どんどん自分で墓穴を掘っていく土井ちんが大変面白くて可愛いぃ…!!!
「好き」という気持ちを隠し続ける北村とどうしても「好き」と言わせたい土井ちんの一世一代の勝負の行方は…
「遠くで電話がなってる気がする」
表題作「つきあってさんかげつ目」より動悸が激しかったお話。
江田宇多は22歳の大学生。
42になる叔父が「過労と強いストレスによる不眠及び神経衰弱と著しい免疫力の低下」に加えて帯状疱疹までこしらえて会社を退職したという。
宇多の母親の弟になるその叔父は佐竹山富三郎といって、特に深い交流があったわけではなかったが心配なので「おさんどん」に行ってくれないかという母の要望を聞き入れ宇多は叔父の世話をすることにした。
部屋は荒れ放題で風呂にも入らない食事は出来合いのもの、荒んだ生活から生み出されたボロボロの叔父は世話をするという宇多の申し出を断ろうとするがお手製の料理に釣られて結局宇多を部屋に置くことに。
叔父は部屋から出ようとしないし、風呂に入れば「今電話がなっていなかったか?」と慌てて飛び出してくる、そしてマンションには見覚えのある妖しい人影が…
この辺までであんまりネタバレしないでおきまする。
生真面目で神経質だから病んで会社をやめたという最初のおじさんの印象が、最後のあたりでころっと入れ替わるのはすごくうまかった。
叔父さんったら結構ガツガツ系なのね…♡
一度読んで気づかなかった部分に二度目で気づく、そして二度目に気づいた部分との繋がりを三度目で見つける。
突飛な話を書いているわけではないのグイグイ引き込まれるお話だ。
結末がわかってみれば、何だ叔父さんそんなことで病んで退職しちゃったの?と言いたくなるが風呂に入っている間に電話がかかってこないか気をもんでしまうほど心を支配していたのだろう。
まとめ
サラッと読んでしまえば、単なる11編の短編集に過ぎない。
奇をてらった人物が出てくるわけでも、宇宙人が出てくるわけでもない。
ただ日常の一片を切り取って彼らの日常を垣間見ているだけなのにこの充足感は何なのだろう。
本を読んでいて、「言い表せない感情」を与えてくれる作品と現実との境目がわからなくなる作品が個人的に大好物である。
雁須磨子の作品は「言い表せない感情」を与えてくれる至高のBLだ。
でもまあ「言い表せない」とか言ってる時点で勉強不足だなあと思ったりもするのでもっと精進したいのであった。