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🔥ネタバレ感想|新井煮干し子『渾名をくれ』|静謐と激情と

「おれたち二人じゃ、きっとどこへも行けなかったよ」

日本には信仰がないと言われているが、信仰と密につながる「祈る」という行為についてはどうだろう?

合格発表の直前に、家族の突然の不幸に、死ぬほど腹が痛くてたまらないのにうんこが出ないときに…自然と考えるのは神という存在についてではなかったか。

西洋に置いて姿を現す神とは違い、その自然な祈りによって浮かぶ神はとても抽象的なものだ。

心の奥から湧き出る神への信仰とはどこから来たものなのか。

服を着る、顔を洗う、食事を摂る、あたり前のことに列をなす信仰を、ある美しい一人の男に見出した芸術家の物語を紹介する。

ざっくりポイント
  1. 信仰の話だけど信仰の話じゃない(作者談)
  2. 脳が死んでるときに読むともっと脳が死ぬので注意
  3. 何度も読み返す作品

公式あらすじ

「ジョゼはおれの神様だった。」
愛されるより愛したい絵描き×対等に愛し合いたいモデル。
超純粋ラブストーリー。

愛で溢れているのに、すれ違うのはなぜだ。
有名イラストレーター・天羽(あもう)と超人気モデルのジョゼは同居中。天羽は美しいジョゼを愛し、ジョゼが他の男と寝ても、帰らない日が続いても、召使いのように従順に受け入れる。「愛されるより愛したい」。それが天羽という男だった。
しかし、ジョゼの恋心が自分に向かっていることを知り、天羽の心中は――。

愛されることを望まない絵描きと、対等な恋人になりたいスーパーモデルの純粋すぎるラブストーリー。
「おまえを独占するなんて、どんなに望んでも叶わないと思ってた――」

『渾名をくれ』新井煮干し子のネタバレ感想

すごい真面目にはじめてしまったけど、忘れましょう。

はい、1.2.3.…ポカン!

新井煮干し子作品の中でも異彩を放つ『渾名をくれ』ですが、読む人によって何通りでも解釈の余地を与えてしまう沼作品です。

なので、感想書こう書こうと思いながらもどんどん後回しに。

感想が書きやすい作品は勢いで書かれていて(深みがないとも言う)勢いで読めて、そのついでに勢いで面白かったー!と書けるので簡単だなあと思います。

でもそういう作品は面白いけれども後に残らない。

やっぱりどこか印象をもって引きずる作品が好きだなあと常々思います。

日々ただ死ぬまでの余暇を消費するためにBLを読んでいるわけではないと思いたいので。

早く余生を過ごしたい!!!

見どころポイント
  1. 天羽崇人は稀代のイラストレーター、その人物像は伏せられている
  2. もうひとりの主人公、ジョゼはぽっと出のスーパーモデル
  3. 二人の関係に変化を与える人物、ジョゼと同じ事務所のモデル剣
  4. 恋人同士のように見える天羽とジョゼだが、その内情はジョゼの美しい肉体への信仰のみを良しとする天羽の特殊性で停滞気味

天羽崇人

その年代にしては広すぎるマンションに住み、献本の山を片付ける暇もなく作業に明け暮れる男は新進気鋭のイラストレーター天羽崇人だ。

彼については、年齢容姿性別趣味嗜好プライベートとほぼすべての情報がふせられ、やれあちらでは女だ、こちらではユニットで書いているだのいろいろな憶測と噂が飛び交っている。

けれど、彼の作品に描かれる華やかで美しいジョゼへの執着はむき出しのまま見た人に伝わり続ける。

天羽はジョゼがいないと作品を完成させることが出来ない。

大理石を掘り出したなめらかな彫刻のような身体を撫で回しその造形に触れて初めて絵に情熱を込めることができる。

天羽にとってジョゼは神であり信仰の対象だ。

ジョゼ

突然現れたハーフのスーパーモデル・ジョゼ。

地元に青い目の人間が多いという地域に生まれただけでれっきとした日本人だ。

ジョゼというのも仕事上のもの、本名は全く別の名前。

ちょっとした不幸で二人の同居する家に転がり込んでくる。

彼は寝ぼけてクリスマスチェックのパジャマを着たまま、気がついたのにどうせ衣装に着替えるしとそのまま事務所に向かうような無頓着さがある。

この物語に変化を与える人物。

ジョゼの鼻骨折

終盤、ジョゼが酔っ払って鼻を骨折してしまう。

顔面から地面に倒れたのだ。

顔を怪我してしまったことは彼の造形が数ミリでも形を変えてしまったことを意味する。

当然天羽はそれに対して何らかの反応を見せると思っていたが、何の反応も見せない彼の代わりにジョゼが激高した。

ジョゼは天羽が自分の体に強烈な気持ちを向けていることをしっかりと自覚している。

自分の体が少しでも傷つけば彼に捨てられる心配させするのだろう。

あまりに歪んだ関係だが、なにかその歪みを見せないように物語は静謐を保ったまま進んでいく。

おわりに

天羽は歪んだ愛情の持ち主だ。

美の神様をズリネタにした罪悪感をその当人に見せられないのは当たり前だ。

と書いてしまうととたんにチンケに感じるのだから漫画の語らない描写というのはすごい力を持っている。

信仰しているように見せかけていただけで、結局は「持っていはいけない」と考える感情をジョゼに見せられないまま物語は終わる。

まあなんかヤッてる時点で信仰!??!??ってなるし、本当に書きたいものはジョゼの肉体ででもそれをジョゼ含めて誰かに見せることは自分の恥部を晒すようで絶対にできない、困った男だな天羽。

そんな感じでどうにもならない関係性を続けて行くかもしれなかった二人の中間に、剣という結合部が加わることでどうにかこうにか変化を見せる。

いまいち噛み砕ききれていない感想になってしまったが、またいつか読み返したときにでも…