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🐯ネタバレ感想|村上キャンプ『中野の成島さんとふみくん』

「今日は理性的でいられる自信がない、いつの間にこんなに夢中になっていたのでしょうか」

村上キャンプ『私は司会者』の印象が強すぎて引き摺ったまま読んだのを後悔した。
日々意識していない「説明できない感情」が表現された良作だ。
スルメ本のような気がしているので何度か読み返してみる。
ざっくりポイント
  1. 中古おもちゃ屋さんでバイトをする佐藤史隆・通称ふみくんとその一帯の販売店エリアマネージャー成島さんのお話
  2. 初対面なのにふみくんに拒絶オーラを出される成島さんは一体…?
  3. 言葉では表しきれない感情をほっこりと形にした優しい作品

公式あらすじ

中古のおもちゃを扱うお店でエリアマネージャーとして働く成島は新人アルバイトの大学生・佐藤史隆、通称ふみくんに、初対面から警戒心と嫌悪感丸出しで避けられている。そんなふみくんに興味を示す成島はめげずに声をかけ、ある日、苦手に思われている意外な理由を知ることになり――。

(『中野の成島さんとふみくん』村上キャンプ より)

『中野の成島さんとふみくん』ネタバレ感想

ネタバレ目次
  1. ふみくんを押し込めていたトラウマの正体
  2. 敬語リーマン攻めがちょっとツボ
  3. ふみくんはまた「手を引かれる側」にならない所がすごく好感
  4. 「他人には価値のないもの」

ふみくんを押し込めていたトラウマ

ふみくんは初対面の成島さんに明らかな拒絶を見せる。

これには理由があって、ふみくんが高校3年生のときにお付き合いしていた2つ年上の女性が成島さんのような長身で大人の男の人とベッド・インしている現場を目撃してしまったのだ。

ふみくんにはコンプレックスがたくさんある。

もうすぐ二十歳なのに成長期を終えてしまったような身長に、伸ばしても伸ばしても全然立派に生えてこない薄いヒゲ、男らしくもりもり食べたいのにふた口でお腹いっぱいになるほどの少食、人付き合いもあんまり得意じゃない。

それでも手を引いて愛してくれた女性が自分の羨むものをすべて持っている男と浮気をしていた。

こうしてふみくんは長身の男の人がだめという難儀なトラウマを抱えてしまうことになった。

ある日のアルバイト終わりに、酷い嵐な上、自転車がパンクしてしまったふみくんは成島さんに車で送ってもらうことになる。

拒絶することも出来ず車内に二人っきりになってしまったふみくんは青ざめた顔で体を震わせあっという間に過呼吸を起こしてしまう。

そのあまりの様子に、ふみくんを介抱しながらできる限り優しく接して

「話すことで何かつかえが取れそうなら話してみませんか?決して笑いませんよ、約束しますよ」

と語りかける成島さんはなんて出来た人なんだろう。

みんなこんなひとなら生きてても苦しくないのにね。

敬語リーマン攻めがちょっとツボ

成島さんは誰に対しても不思議な敬語の使い手!

素敵だと思います。

なのに結構な変態オヤジなのもポイント高いです。

〜してみたかったんですよ、とか、〜してみたかったんですね、とか自分の頭で思考している状態でも常にこの「語りかけの形態」を持った敬語を使う。

なんか不思議な人だ。

普通の人は思考する時「自分が考える」状態なので一人称だが、成島さんの場合もう一人の自分と会話しているような感じだ。

思い悩んだり思考したりする時は自分の内側に内側に意識が向かいがちだが、この発想はポジティブで羨ましい。

思うに、自分の感情だけを見て完結させない人だからこそこうして優しく人に接することができるのだろうな。

ふみくんはまた「手を引かれる側」にならない所がすごく好感

成島さんの大人対応で冷却期間を置いた後、告白されそれを承諾したふみくん。

また手を引かれるがままに歩いてしまうんじゃないだろうか…と思ったが全然そんな心配ババアは必要なかった。

この二人は、

  • ふみくん:恐怖の対象→優しくて大人な男性
  • 成島さん:意味不明に拒絶してくる美少年→純粋で可愛い美少年

マイナスの始まりから、実はとてもいい人だった展開で高感度が5割増しくらいになっている。

ヤンキー猫を拾うに代表されるようにキュンとしてしまうんだろうなあ。

ただこの二人に限っては、特殊な出会い方をしていなくても惹かれ合ったんじゃないかなと思える。

「他人には価値のないもの」

100円のボールペンより1万円の万年筆に価値を置くのは、値段への意識が重い。

無名だが素材は一流のバッグよりも高級ブランドだが素材は一般的なバッグに価値を見るのは知名度への意識があるからだ。

はたまた、その「モノ」が付随している自分を好むというナルシスティックな傾向も多いだろう。

「一生モノ」と評された時、変に高級志向に偏ってしまうことがある。

ただ今作で語られた「一生モノ」はそれらとは一線を画しているように感じる。

「他人には価値のないもの」が自分にとって唯一無二であるというのは誰しも体験があるのではないだろうか。

自我も芽生えない頃から使っていたタオルケットであるとか、恋人といった砂浜の貝殻とか、子供の抜け落ちた乳歯とか、想いの強さがそこにはある。

ふみくんと成島さんの間にはそんな優しい感情が流れていた。

きっと二人はお互いを大切にし合うことができるだろう、「一生モノ」の存在だから。