すごくきれいに構成された作品だった。
うますぎてアクがないくらいに感じたけども、起承転結過去編ありキャラクター数も申し分なし…映画化するしかなのでは!?
一言まとめ
美大時代に惚れてた男が七年ぶりにイギリスから日本に帰ってきたけど、過去のすれ違いが原因でなかなか気持ちが通じ合わない。そこに同僚の男も絡んできて邪魔するかと思いきやめちゃくちゃいいやつで助言や手助けをしてくれて、なんとか二人は結ばれましたとさ。
ネタバレあらすじ
「だから!あいつの行きそうな場所なんて俺にわかるわけないでしょう!」
そう声を荒げるのは、アートノート編集部の吉見拓磨。
「そんな怒鳴んなくても…」
その様子に憔悴しきった顔で返答するのは、同じく編集部のライター西美奈子。
「おはようございまーす」
と明るい声がして、気まずい二人の空気を変えたのは編集アシスタントの大儀見れーなと同時に出社してきたデザイナーの南室晃平もいる。
冒頭の二人の様子には昨日から続くある男の事件が関係していた。
“加瀬慎之介、美大在学中にロンドンへ留学絵画や彫刻を学び首席で大学を卒業。気鋭の画家としてその後の活動が注目されるも放浪生活を送りながら制作するスタイルをとり、「若き放浪の画家」「日本のピロスマニ」などと呼ばれる”
この男、日本の空港に降り立ったのを最後に消息不明である。
吉見の勤める編集部では、ライターの西が担当となり日本のアトリエで絵の制作をしながら取材を受けてほしいと加瀬に依頼していたのだ。
その日の夜になっても連絡がつかない加瀬。
編集長は、吉見に加瀬の緊急連絡先を知らないかと尋ねてくる。
吉見は内緒にしていたつもりだったが、取材を依頼する折に加瀬が編集長に「美大でいちばん仲が良かった」と話してしまっていたらしい。
吉見はとりあえず同期に聞いてみますと話を切ったが、他の同期に連絡したところで誰も加瀬の連絡先を知るはずがなかった。
七年前、「もう…俺、吉見のそばにはいられない」
そう言って、日本を離れた男。
吉見でさえ今は連絡が取れるはずもなかった。
翌日、デザイナーの南室と仕事帰りにボルダリングに出かけた加瀬。
「体動かして少しはスッキリしたんじゃね?」
「…何が?」
「何がって、最近ストレス溜め込みすぎてるように見えたし」
「…別に…それを言うなら美奈子さんだろ」
「ははっ、確かに〜」
「けどまあ…体動かすのも悪くない…」
「じゃあ、ホテルでも行く?」
「………………………はぁ?」
一方その頃!行方知れずの加瀬は公園でホームレスのおっちゃんにワンカップをごちそうになっていた。
「いや〜そりゃ災難だったなあ兄ちゃん!とりあえず、飲め飲め」
「ありがとう…やさしいなあおっちゃんたち…」
加瀬は薄汚れて小汚くなりしっかりその場に馴染んでいた。
「しっかしおめぇこれからどうすんだ?荷物ぜ~んぶ盗られちまったって話じゃよォ!スマホン持ってねえのか?すまほん!」
「それが…携帯も空港のトイレで落としちゃってね…」
そんな話をしている公園の傍を通り過ぎる人影があった。
「まてよ、吉見!」
加瀬はその声が耳に入った瞬間がたっと立ち上がる。
「なあ、んなカタく考えんなって…ストレス発散だと思ってさ。健康的に体動かそうぜ?」
「だからなんでそうなるんだっ」
「おまえとはもうそういうことはしないって言っただろ!」
「そっちが最初に誘ったくせになー」
「!?あれは…っ酔っていたせいだって…っ」
「頼むから…1年以上も前のこと蒸し返さないでくれ…」
「好きだったんだろ?「加瀬」のこと」
「な…」
「吉見は覚えてないと思うけど…あの日…酔って俺とヤッてる間お前がなんて口走ってたか…
教えてやろうか?」
勘違いって大変な労力
ピロスマニってなんや!!!日本のピロスマニ!!?
冒頭で出てきたもんで、ずーーーーっと気になりながら読むのやめられないから最後まで読んでから調べた。なるほど。
参考 ニコ・ピロスマニ全体を通して違和感なく不安要素もなくきっちりと構成されていて読みやすかった。
なんだか最近芸術絡めが流行っているの…?
話を戻して、過去編に突入するまでは基本的に「吉見の視点で見た加瀬」という状況が語られていくので、天才肌であまり人と関わることが上手でなくて極度の方向音痴で料理をさせればパンを焦がすという、芸術面以外はてんで不器用な男の姿が読者に刷り込まれる。
そして、上のあらすじにも入れたが、
「もう…俺、吉見のそばにはいられない」
という一方的な別れの告げ方はものすごく自己中心的な印象を与えてくる。
しかし、いざ帰ってきた加瀬が登場して喋り始めると、まてよ…?コイツの本質は違う気がするぞ?という部分が見えてくる。
編集長の思惑で、とりあえず吉見の家に厄介になる加瀬は従順そのもので、とにかく七年ぶりに吉見に会えたことが嬉しくて仕方がないという振る舞いを見せる。
加瀬は吉見に、七年前と変化すること無く関わろうとしている。
まだ学生だった頃、加瀬が吉見のアパートに泊まると翌朝は礼だと言って朝ごはんを作っていたらしい。
そして毎回必ず、「卵何個にする?」と聞き、それに「二個」と答える二人だけの決まり事があった。
そうして七年前と同じように、加瀬は吉見に全く同じ朝ごはんを作って食べさせようとするが、「吉見は牛乳多め派だったよな!」と聞く加瀬の言葉を受け入れず「…今はブラック派だから」と返事をする。
七年前とは変わってしまったんだと加瀬に言葉もなく突きつけていく。
頑なに加瀬を受け入れようとしない吉見に現実を突きつけ思い直させる役目を持つのが同僚イラストラーターの南室くんである。
彼は本当に良いキャラクター!!!
どうしてこっちにしないのですか…吉見さん…?
芸術バカで放浪癖のある小難しい男より、人の感情を慮れて地盤のしっかりした男のほうが良くないかね。
まあ、自分にない本当は欲しかった才能を持っている男に憧れているんだろうけど。ペッ。
また脱線した。
南室くんは、吉見にこう話す。
「ままごとみたいな恋とやらを未だにズルズル引き摺っているくせに「向うにその気がない」なんてそれって吉見の主観だろ?吉見の本当の気持ちは?「何も起きない」なんて期待してるフリしてるけどさ、それだけ未練たらたらな相手が今自分の手の届く距離にいて少しの期待もないなんてありえない。
ま、いい機会だしこの際はっきりさせようぜ。加瀬を「過去」にするのかこの先ずっと引き摺ったままなのか、それとも俺と幸せになるか♡
なんてな、俺は都合のいい相手でいいよ、今はね。でも吉見はこのままでいいの?
止まった時間進めなきゃ」
ん”ん”ん”ッ!!!!!!(言葉にならない)
はぁ…そしてこんなに最高の助言をしていただいたにも関わらず、もうひとよじれふたよじれしてからやっとこさで吉見と加瀬はくっつきます。
長かった。
ていうか、二人共最初からめっちゃ性にオープンならこんなことにはならねえのに…
はい、で最後に二時間映画を見たような冒頭の繰り返しで結末を迎えます。
コレそのままシナリオで映画化したらいいじゃない。既婚変態おじさんの辺りだけ直さなきゃいけないかもしれないけど。
一個気になるんですが、加瀬はなぜあんなにマッチョなのか!?放浪生活してるとああなる?ならなくない?放浪じゃなくて傭兵生活でしょ?マッチョ大好きOLさん
まだ消化しきれていないので追記するかもしれない